目的

研究の目的

本研究では、妊産婦への医療機関の選択行動に対するアンケート調査と妊産婦と産科医療関係者へのインタビュー調査により、妊娠・出産の高年齢化の現状を把握し、その課題を明らかにする。

初産の出産年齢が10年間上昇し続けており、ハイリスク分娩とされる高年齢妊娠分娩、不妊症治療妊娠、帝王切開が増加している。妊産婦の高年齢化に伴う妊娠・出産のサポート体制に対する経済的・心理的ニーズを捉え、安心して出産を迎えることができる産科医療体制の再構築に向けた新たな知見の提供をすることが、本研究の目的である。

研究の学術的背景

産科医療体制の上での重要な現象として「妊娠・出産の高年齢化」がある。「平成25年版少子化社会対策白書」によると、初産年齢は調査史上初めて30歳を超えている。不妊治療の進歩により体外受精などの生殖補助医療を受け、長期間かかって妊娠にいたる例も多いため、高齢出産が増加している。特に40歳以上の妊娠・出産はリスクが高く、笠井(2011)によると、高年妊娠においては、年齢だけでなく、その背景にあるリスク因子を正確に評価し、妊娠・出産・育児を連続した視点でサポートする必要があると指摘している。

妊婦と医療機関が妊娠・出産の高年齢化のリスクをどのように捉えるのかは重要な課題である。近年の妊娠・出産の高年齢化に伴い、出産時のリスク認知は大きく変化すると考えられる。申請者が2002年に行った調査(伊藤,2003))では、妊産婦の出産場所の意思決定に関して分析を行った。研究では、妊産婦自身が健康状態に対するリスクを感じていなければ、自らが望む出産内容を実現できる場所を選択して決定し、さらに妊娠・出産時に通っていた医療機関に対する満足度が高い傾向にあることが確認された。

しかし、10年以上経った現在、出産場所の意思決定や医療サービスに対する選好は、妊娠・出産の高年齢化、及び産科医療機関の減少によって変わる可能性が高い。出産は結果の予測が不可能なイベントであるため、妊娠・出産の高年齢化は、不確実な状況におけるリスクの捉え方や意思決定に影響を及ぼすと考えられる。さらに近年の医療技術の進歩により、体外受精や出生前診断などの技術面の状況も変わっており、自らの出産への医療の介入に対する選好も変化が見られると考えられる。

医療保険制度上の産婦人科診療の大きな特徴は、妊娠時・分娩時・不妊治療時は自費診療となっている点である。出産に関する保険診療は、出産前に母体が危険にさらされた時の医療介入のみである。毎年出生数が減少し、少子化がさらに進展している現状では、これまであまり着目されていなかった産科医療サービスを受ける妊婦側の経済的・心理的負担の面から産科医療体制を捉えなおすことが、少子化対策の上でも重要であると考えられる。本研究では、アンケート調査とインタビュー調査によって、妊産婦の心理的・経済的なニーズを捉えることにより、妊産婦にとって安心ができる出産環境を整えるための課題を明らかにする。

他方、妊婦を受け入れる産科医療関係者の妊娠・出産の健康リスクの捉え方も変化していることが予測される。妊娠・出産の高年齢化に伴い、ハイリスク分娩、不妊症治療、帝王切開が増加している。さらに、近年の診療技術と遺伝学的技術の進歩により、母体血清マーカーを用いた出生前診断や胎児の染色体異常が分かる超音波診断など、新型の出生前診断が臨床現場で用いられるようになってきている。そこで、本研究では高年齢の出産に対しての産科医療関係者の認識、対処の現状を明らかにする。